野口英世という確信犯

Mumble | Posted at November 9, 2004 6:39 PM

昨日、やっと新しい1,000円札が自分の財布にも登場しました。野口英世であります。
1人の人間を崇め奉る事は、あまり好きでない僕ですが、野口英世はかなり好きな部類に属しています。

彼は、駄目人間と努力人間の共存する、ついつい放っておけなくなってしまうナイスキャラ。
新札発行効果で、少しずつ有名になってきたようですが、子供の頃に読んだ伝記には書かれていない、駄目人間伝説が大量に有るのです。

日本国内で数々の無心を繰り返し、首が回らなくなった彼は、「ここらで、ひと勝負!」と、渡米を決意します。いわゆる高飛び。
借金まみれの彼には先立つものが有りません。それでも彼は、何らかの使命感(借金の踏み倒しも含む)で、アメリカへ行きたかった。
そこで、ある富豪の娘と帰国後に結婚する約束を取り付け、多額の支度金を手にします。これに加えて、恩師の小林の蓄えからも多額の援助を得ることが出来ました。
しかしながら、彼は、このありがたいお金を、ほぼ全て芸者遊びで使い切り、渡米後には、婚約者の存在など無かったかのように、しれっとメリーと結婚してしまう。婚約詐欺です…

金が足りなくなって焦った彼は、別の恩師、血脇に泣きつき、彼が高利貸しから借りてきてくれたお金で、アメリカへと渡ります。
しかし、勢いでアメリカに来たは良いけれど、アテがない。そこで今度は、唯一の知人(と勝手に思いこんでいた)フレキスナーを3日かけて泣き落とし、私設助手にして貰うのです。

仕事を与えられた彼は、人間発電機と称される程の情熱で、研究に傾倒し、世界的にも評価されます。給料も高くなって一安心、と思いきやそうでもなかった。
ある日、涙無しでは読めない手紙を受け取ります。字に不自由な母親が、自らの想いを懸命に綴った、帰国への嘆願です。
しかし、彼が帰国するのは4年後。挙げ句、帰国時の渡航費用や母親への孝行旅行の経費は、親友の星一(作家、星新一の父)がすべて肩代わりしています。

とてつもなく自己中心的な男です。
アルコール中毒であり、女遊びに狂い、借金を作り、禁煙の研究室で煙草をふかし、前時代の発電機よろしく迷惑を振りまく。
けれど、彼には、人を惚れさせてしまう信念と、それを余すことなく伝える能力があったんでしょう。それだけに、彼を認めてしまった数多くの人が、決して返ってこない事に気づきながらも、金を差し出してしまったのです。一部には、本気で恨まれていたらしいけれど。

英世の死後、その研究成果はことごとく反証されています。しかし、彼の功績はそれらの成果で量るものではなく、その墓に刻まれた「科学への献身により、人類のために生き、人類のために死す」という姿勢なのではないかと考えます。

新札の話を書こうと思ったはずなのに、「英世の生涯」みたいになってしまったので、最後に余談。
柱に刻まれた「志を得ざれば、再び此地を踏まず」の言葉は、あまりにも有名ですが、なかなかしびれるものが他にもあります。その中でも僕の好きな2つを紹介。

「目的、正直、忍耐」
「周りの人間も、周りの状況も、自分から作り出した影と知るべきである。」

数々の逸話を見るに、「彼は確信犯だった」としか思えないわけです。

Continuing the discussion...

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Comments

補足トリビア
そんな野口英世ストーリーは既にトリビアの泉で放映済み、と。

研究室生活をしていると、何故にどうして自然科学研究の世界には勤勉というか殊勝というかスマートというか、そういう人がいないんだろうなあ、と思います。奨学金を全てパチスロに投じたとか最早聞き慣れたエピソード。
科学の中でのスゴイ発見というのは「破天荒」と称してもおかしくないほど凄まじいものであることは珍しくないわけですが、結局スゴイ発見て破天荒な人によってなされるのかなあ、と思ったりもします。
ただ皆に共通するのは、性格むちゃくちゃだけど「熱心」であることに変わりはない。むちゃくちゃだけど!(←ここ重要)
白い巨塔における里見先生のような真面目で優しい性格の人は、日の目を見ることなくうずもれて、でもそれでも構わないって思える人柄を持ってるんだろうなー。

ってひとんちで語ってしまったw
医局の真実が暴かれたのが21世紀の初頭ならば、バケガクの真実が暴かれるのはドラえもんが生まれる頃でしょうか。それにしてもほんと研究室汚い。臭い。助けて。

Posted by: うつん @ November 9, 2004 11:48 PM

> 新札発行効果で、少しずつ有名になってきたようです
って書いてるのに…見ていないけど、トリビアで流れたらしいってのは、織り込み済みで。

学問に疎い僕ですので、細かいことは判らないけれど、発明家は、バランスの悪いサボリ症+使命感の人だと思います。偉人は変人と紙一重であり、強みは弱みであると。背中合わせの真実というヤツでしょうか。

Posted by: shin @ November 10, 2004 1:09 AM

そいつぁ失礼しやした。

しかし、野口英世の研究業績がその後反証されまくっていたというのは初耳でした。野口英世記念館だったかに行った頃は科学にも医学にも深く興味を示していない一般高校生だったからなー。
科学って反証されちゃうと、研究してた人はマジ凹みするだろうけど、100m走なんかとは違って、進化の方向が一方向じゃないところに科学のおもしろさがあるよね。反証された野口の研究も、おそらくは別のところで役立っているのでしょう。知の蓄積ってそういうもんだ。
あることの解決法をただ探っているだけの科学なのに、そこで見つけた解決法が誰かの手に渡って、別のソリューションを生み出していくっていう連鎖。科学の歴史っていやはやすさまじい。

って、またひとんちで語ってしまったw

Posted by: うつん @ November 10, 2004 1:24 AM

反証についてだけど、捏造と評されるくらい彼は疑われているようですね。研究者としての実績はほぼゼロという人もいるくらい。

しかし、彼が生きた時代は、顕微鏡でウイルスを見て取れない頃だったわけです。どんな才覚があっても黄熱病は解決できなかったのですね。
「私にはわからない」という最期の言葉が重たくなる事実であります。

Posted by: shin @ November 10, 2004 5:21 AM

Mumule様へ
 わたくしも故野口 英世氏のことはあまり知りません。
 でも、母親が長兄に無理に野口氏の本を読ませていたので長兄は科学全般分野に興味がないのでわたくしも野口氏のことは恐い人間だという風に錯覚をしていました。
 しかし「遠き落日」(1992公開)をTV放映で観て自分が思っていた人間じゃなく、一本木な方だということが分り、同名の原作本を借りて読みましたが、医学専門用語が多すぎて分らずじまい・・・・・・。
 1000円札になったからというわけではありませんが、いつか読もうとしていたその原作を今度は買いました。でもやはり難しすぎて・・・・・・。やはりどうしても野口氏のことを知りたいので小中学生向の本でも読みたいと思います。
 旧1000円札の夏目 漱石氏は誰からも愛され、否定的に思う方は数えるほどでしょうね。でもわたくしは夏目氏をあまりよく思っていません。「門」・「行人」では露骨な血も涙も心もないとても人間が書いたとは思えない作品を書いていらっしゃり、学生のとき一晩で読みましたが嘔吐しそうでした。夏目氏の弟子である芥川 龍之介氏は『夏目先生が亡くなる時わくわくした』という内容のことを龍之介氏の全集で読みました。
 善人面をされた夏目氏をわたくしはあまり好みません。
 野口氏のことは貴方が書いていらっしゃることが事実か否かは分りませんが、ただひとつ言えることは『本物は叩かれる』ということです。
 貴方がそこまで野口氏を非難中傷されるならばその力を嫉妬ではなく反対に野口氏に負けないくらいの偉人になられたらいかがでしょうか。
 わたくしが申し上げたいことはそれだけです。
                     本物は叩かれるより

Posted by: 本物は叩かれる @ January 23, 2005 5:50 AM

> 本物は叩かれる氏

まず、僕は野口英世が大好きなのです。冒頭にもそう書いていますし、もうちょっと本文の論旨を汲んで頂ければなぁと。

人間である以上、全て肯定されることはあり得ないと思います。どんなカリスマも近づけば近づく程、良くも悪くも人間らしさが見え、なんらかの欠陥が見えてくるものでしょう。そもそも、僕は彼を尊敬していますし、最後に挙げた彼の言葉を、自分の中で大切にしています。
僕がこのエントリで言わんとしたことは、野口英世という男の決して褒められない行動の数々を、周りの人間が受け止め、支持してしまう事から、彼にはそれだけの真摯な姿勢があったのだろう。という事です。

最後に、「本物」という言葉で何を指しておられるのか判りませんが、目立つ人がその分、批評の対象になることは真理でしょう。
小中学生向けの本や映画は、往々にして美化されることが多くありますので、それだけを引き合いにする批評は大変危険な、偏ったものに成りうると思います。なにかひとつの面を端的に理解するには有効なものかもしれませんが。

Posted by: shin @ January 23, 2005 1:49 PM

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